インドネシアの布 イカット 絣

バリ島やスンバ島、フローレス島などの東ヌサ・トゥンガラ諸島で作られる織物(イカット)は、 模様の豊かさとデザイン構成のユニークさから、世界の愛好者や専門家の間でも高い評価を得ています。
それらの模様は、多くの場合単なる飾りでは無く、そこには彼らの文化や信仰に基づいた重要な「意味」が織り込まれた布。 例えば部族の生活を律する慣習法や歴史、彼らが信じる世界観、社会的な地位を表します。 そのためイカットは、それそれの島の自然・文化・宗教の違いから、島ごとにそのデザインが異ります。

  

しかし現在、珍重され続けてきたイカットも、御土産品として量産化が進んだ結果、 時間をかけて織り込まれてきた見事な品が少なくなってきています。また、伝統的なイカットを織る人も減ってきています。
近い将来イカットに織り込まれる模様も、単なる装飾デザインになってゆくのかもしれません 。

    

イカットの織り方
イカットを織るのは大変な作業です。
最初に糸を染めます。
縦糸になる糸を木枠などに張り揃え、出来上がりの模様などを考えながら防染する部分を糸でくくり、染液に浸して染めます。 二色、三色を使うときには、この作業を二度三度繰り返します。
次にくくりをすべてほどき機にかけ、横糸を入れながら織ります。
多くの手織りイカットは、一日に数センチしか折れないという根気のいる作業で、完成までに数年はかかり、 中には十年以上を要するものもあります。
島ごとの柄の特徴
バリ島
バリ島には、バリヒンドゥ文化と、先住民のバリアガの文化があります。
その違いで染織も異なってきます。
バリヒンドゥ文化の染織は、芸術性・技術共に高く評価されているイカット。
また、バリアガ文化を残すテンガナン村で織られている「グリンシン」は、ダブルイカット(経緯絣)と呼ばれる非常に貴重なイカット。 「グリンシン」とは、「グリン」が病気・「シン」が無いとい意味で、無病息災を意味する魔よけの布。
現在、世界中でこのダブルイカット(経緯絣)が、織られているのはインド、日本とこのテンガナンの三ヵ所だとされています。
スンバ島
スンバ島のイカットと言えば、浮き織りのイカットが有名です。ここでは、模様について・・。
スンバ島のイカットには、よく動物の模様(水牛・鰐・亀・馬・蛇など)が登場します。 これらは皆、マラプ信仰から来る象徴模様です。
また、布の中には、スンバ島がたどってきた歴史そのものを表すものもあります。
インド風の模様、オランダ風の模様などがそれです。 インド風の模様には、「パトラ模様」やインド古代叙事詩を題材にした「ラーマーヤナ模様」などがあります。 これは13世紀にインド伝来のヒンドゥー教を奉じてジャワ島を制圧したモジョパイト王国の影響によるもので王国の手がこのスンバ島まで及んでいたことを示すものです。
フローレス島
フローレス島のイカットには身近な小動物や花の模様が良く描かれますが、部族によりそのデザインは多種多様です。
全体的には濃い茶色藍色をした重厚な仕上がりになっているものが多く、特に島の西部に住むマンガライ人は、 色とりどりのの糸を使用した鮮やかな花模様の織物を作っています。
島の中央部に住むリオ人のイカットには、蛇の模様がよく登場します。
フローレスにはこの他、キリスト教の影響で天子や孔雀模様が描かれた布もあります。